議員とマスコミ


昔の映画ですが、議員のあるべき姿とマスコミと言う生きものを描いた大変面白い映画です。是非、ご覧下さい。

スミス都へ行く」 配給コロンビア1941年129分 監督フランク・キャプラ
主演 ジェームズ・スチュアートジーン・アーサークロード・レインズ、トーマス・ミッチェル
主人公スミスは田舎のボーイスカウトのリーダーだったが、急死した上院議員の代わりに、政界に担ぎ出される。スミスはそこで政治の腐敗と単身対決することになる。
第12回アカデミー賞で、作品賞を含む合計11部門にノミネートされ、原案賞を受賞。主演のジェームズ・ステュアートは、第5回ニューヨーク映画批評家協会賞において男優賞を受賞した。
 この映画は「正義」を貫く物語である。映画の主要な舞台はアメリカ上院議会、何州かは明かされないが何となく西南部らしい。背景を説明すると、その州では新聞社を経営するジム・テイラーとその一派が、州知事をはじめとした政治家とともに、新規ダム建設に関する大規模な不正を行っていた。テイラーは俗に言う地方のボスで、経済界は勿論、政治家さえも自在に動かす力を持っていて、ある広大な土地を二束三文で買占めてから、その土地に政府のダムを誘致し、莫大な利益を得るつもりだった。ダムの誘致を成功させるためには早急に新しい上院議員を選出しなければならない。しかし後継者選びは難航した。テイラーの手先の州知事は迷った挙句、ボーイスカウトの団長を務める青年ジェファーソン・スミスを推薦した。スミスは子供たちから絶大な人気があり、その親からの票が望めることと、理想は高いが青臭く政治には全く無知で、頭も悪く、テイラーの傀儡にしやすいことがその理由であった。そしてスミスは自分の意識とは関係なく上院議員に選出され、首都ワシントンで政治家をはじめることになった。
 主要な登場人物は純真で無垢な「ジェフ・スミス」(ジェームズ・スチュアート
スミス議員の秘書「サンダース」(ジーン・アーサー)先輩議員「ペイン議員」(クロード・レインズ)上院の「議長」(ハリー・ケリー)そして新聞記者「ムーア記者」(トーマス・ミッチェル)だ。特にジーン・アーサーがいい。
ファーストネームは? 皆、サンダースとしか呼ばない」
「クラリッサよ」
議会に初登庁するジェフに「初めて学校に行く子供を見送る母親のような気持ちよ。」ともらし、キスも抱擁もせず、彼女の女と言うより母性が感じられ、しかも、ジェフへの慈しみとも言える愛を感じさせてくれた。
 映画には様々なテーマやジャンルが存在するがその中でも、特に「政治」を舞台にした映画は、大変珍しい。どうしても台詞にはいわゆる議会用語や政治用語が飛び交い、議会独特の儀式とも言えるルールなどが観客に解りづらく、困難なイメージが先行するからだ。
 観客が映画に求めているものは「親しみや共感」の要素だから、専門用語を使っての応酬や、政治家たちの駆け引きなど敬遠したくなるのだ。しかしこの作品は全く難しくない。そこが監督の手腕だろう。それは、人の心に、それぞれの形で持っている「正義」を描いた映画であるからだ。新人議員の知識のなさを最初はあきれ返っていたサンダース秘書が彼の無垢な純真さ、そしておおらかな人間性に次第に惹かれてゆく心の移り変わりを注目したい。そして彼女を愛している「ムーア記者」(トーマス・ミッチェル)をも、ジェフのファンにさせて行く過程が丁寧に描かれていてとても好感がもてる。
 新人議員のジェフをからかい揶揄する記事が掲載され記者たちに詰め寄るシーンがある。
「何故、真実を報道しない!」
「我々は、選挙する必要がないからな!」事実は伝えるが真実は報道しない、彼らマスコミは真実を伝える自由も権利もあるが同時に伝えない自由も権利もあると言うことだ。そして彼らマスコミが掲げる「知る権利、国民や市民に報道する義務」などと言うモノはしょせん、商売(ビジネス)であることをジェフの言葉で改めて知ることが出来る。

ジェフが初めて臨む上院委員会が開会される。
「開会します。祈りの言葉を。」と委員長
「天なる父よ、我が国が多大な苦難に直面するこの時、国民と同胞のために最善を尽くせるよう公正で慈悲深き力を我らに与えたまえ。アーメン」
ジェフは、唯一の訴えである国立少年キャンプ場設立法案をきっかけに、ダム利権をめぐる州有力者達の腐敗、その背後にいる黒幕の財界人テイラーの存在に気づく。そして、尊敬する先輩議員ペインも腐敗にまみれた人間であることを知ったジェフは議会で腐敗を追求するが、逆に濡れ衣を着せられ、除名動議を提出されてしまう。
何もかもが信じられず、リンカーン記念館の巨大なリンカーン像の前でスミスは悩む・・・。
サンダース秘書はジェフの行き先を察知、駆けつけ 勇気づけ、ある秘策をアドバイスする。それは一旦、発言権をとれば無制限の演説を許す上院の議会ルール。そして彼は世紀の大演説を始める……。
 「発言し始めて23時間16分!上院史に残る快挙です。若者が経験不足を闘志で補い、たったひとりで戦っています。まれに見る戦い、ダビデ素手で、悪の巨人ゴリアテに戦いを挑んだのです。」最初は冷淡だったマスコミもジェフの行動を注目し始める。
このシーンで議長が海千山千の古参議員に孤軍奮闘し、真正面から挑戦するジェフを応援し、発言を促すところなどその表情や仕草がニンマリさせてくれてまさに胸をすく。
 何も打算も面子も利害も名誉も求めないジェフの訴える姿はやがて古参の議員や党派を超え、傍聴席の人々や報道関係者までも、必死で諦めない純真で無邪気なジェフに心を打たれて行く。
朦朧とした意識の中で、最後の力を振り絞るようにジェフは委員長をはじめ古参の委員たちに訴える「まさに失われた大義だ」「マスコミや世間がどんな手段を使ってもわたしは真実を訴え続ける!」そう言って意識を失う。
最後には必ず正義がある。そう信じる人にとって、勇気を与えてくれる素晴らしい作品だ。ジェームズ・スチュアートの若さ、足の長さ、初々しさ、そしてジーン・アーサーの女性らしい包容力が特にいい。