V-storm50の時々日記 ウクライナ紛争



ソチ冬季オリンピックに暗い影を落とした、ウクライナ紛争だか、ソヴィエト時代から現在のロシアに至るまで長い歴史的な民族間の闘争に経済的要素も加わり泥沼化の様相を呈している。私にとって大好きな作家のひとりのフレディック・フォーサイス(イギリスの作家)の小説が頭をよぎり、突然、鮮やかに蘇った。
ストーリーを紹介するので興味ある人は是非、読んでみて下さい。

フレデリック・フォーサイス 【悪魔の選択】 時代は1982年

選択の余地が極度に少なく、どの途を選んでも大きな痛みを伴う…。こうした状況をファーム (諜報機関) では「悪魔の選択」という。


ソビエト穀物の生産計画でミスをして小麦の生産量がガタ落ちになりアメリカは小麦輸出を切り札にして軍縮交渉を有利に進め一定の成果を得る。

ところが時を同じくしてウクライナ解放運動のテロリストによりKGB長官が暗殺される。ソ連側はその事実を隠す。

暗殺犯は西側へ逃亡しようとして、飛行機をハイジャックする。飛行機は燃料補給の必要があるためベルリンに着陸するが、機長の機転により東ベルリンに着陸し、犯人はそこで拘束される。
それを知ったテロリスト首謀者は暗殺犯二人の解放を求めて北海の大型タンカーをシージャックし、要求が入れられなければ100万トンの原油を北海に放出すると脅す。(このテロリストの首謀者は昔、ウクライナからイギリスに渡った移民の子で父から故郷ウクライナがソヴィエトの圧政と民族差別に苦しめられ多くの同胞が犠牲となったことなどを徹底的に教え込まれている筋金入りのテロリストとして描かれている)

西側首脳は最初犯人の要求を飲もうとするが、KGB長官の暗殺が明るみに出ればソ連書記長ルージンの失脚につながるため、ソ連側が絶対に飲めないという状態になる。
せっかくうまくいった軍縮交渉がお流れになるばかりか、ヨーロッパで戦争になる可能性もある。かといって犯人の要求を飲まなければ北海沿岸が汚染され大災害になってしまう。アメリカ、オランダ、西ドイツ、イギリス、そしてソビエトを巻き込んだ危機が、それぞれの思惑をはらんで変転を始めた…。

どう解決するか?というところで「悪魔の選択」という解決手段が出てくる。(これはまだ読んでいない読者のために明かせません!)

主人公はイギリス大使館の一等書記官アダム・マンロー。マンローの元恋人がソ連側の情報を命がけで提供した悲劇のヒロインのように描いておきながら、フォーサイスが最後に用意した強烈などんでん返し的なオチには驚かされること請け合い。(これも秘密です)

下巻p177でアメリカ軍ミサイル艦の艦長が砲術長に巨大タンカー「フレイア号」の攻撃準備を伝えるシーンはなかなか印象的。

「艦長」ゆっくりと彼はいった。「このパターンで攻撃すると、フレイアはただ沈むだけじゃありません。炎上するとか爆発するとかそんな生やさしいものでもありません。蒸発してしまいますよ」「君は命令を実行すればいいんだ、オルセン君」マニングは冷ややかにいった。若いスウェーデンアメリカ人の顔は蒼くひきつった。「あの船には北欧の船乗りが三十人も乗っているんですよ」「きみにいわれなくともわかっている。命令に従って砲撃準備をするか、それとも拒否するか、はっきりしたまえ」砲術長は直立不動の姿勢をとって、「砲撃準備はいたします。でも、自分の手では発射しません。そのときは艦長がボタンを押してください」彼は型どおり敬礼をして、甲板下の砲撃管制室へ降りていった。マニングは手摺のそばで、ひとり思った。「きみに押させやしないよ。大統領が発射を命令してきたら、おれがボタンを押す。そして海軍を辞めるよ…。」

凄いのはこの作品が発表されたのは1979年と言うことはフォーサイスは少なくとも70年代の後半から資料集めをして書き始めていたということになる。フォーサイスは舞台を3年後の近未来1982年としてこの物語を書いている。
フォーサイスは事実が小説の後を行くと言われるほど。ドゴール大統領の暗殺未遂を描く「ジャッカルの日ケネディ暗殺とイスラエルとエジプトの戦いの背景とナチスの関わりを描く「オデッサ・ファイル」そして9・11テロとビン・ラディンボスニアの関わりを描いた「アヴェンジャー」サダム・フセインのクエート侵攻とイラク核兵器の真相に迫る「神の拳」少しの科学知識とパーツを集めることが出来れば簡単に核爆弾が作れる…この恐怖を描いた「第四の核」などなど、読み始めたらやめられないフォーサイスの作品群

なかなか男前のフォーサイス