V-storm50の時々日記 スクリーンガイド3


砂の器
お勧めの映画3本目は日本映画です。松本清張の社会派サスペンス小説「砂の器」を大胆なシナリオで映画化。この映画のために作曲された
交響曲「宿命」の音楽に乗せ殺人事件の謎が解き明かされる。そして描かれる親子の絆…。

作品)昭和49年(1974年)松竹映画「砂の器」143分 原作松本清張 監督 野村芳太郎 脚本 橋本 忍 山田洋次
出演)丹波哲郎 加藤 剛 緒方 拳 森田健作 島田陽子 加藤 嘉 春日和秀(子役)
◆第29回毎日映画コンクール大賞・脚本賞・監督賞・音楽賞
キネマ旬報賞脚本賞
◆1974年度ゴールデンアロー賞作品賞
◆ゴールデングロス賞特別賞
モスクワ国際映画祭審査員特別賞・作曲家同盟賞
【あらすじ】
東京蒲田駅の線路で顔を鈍器で殴られ殺された老人が発見される。警視庁の今西刑事と蒲田警察署の吉村刑事は前夜近くのバーにいた被害者と
容疑者の会話の東北弁「カメダ」を手掛かりに東北地方に飛ぶが手掛かりはなくその後の必死の捜査にも関わらず迷宮入りとなるが…
戦前、戦後の日本の差別、偏見、欲望、保身を浮かび上がらせながら日本と日本人に問いかける昭和を代表する松本清張の傑作社会推理小説
砂の器」の映画化作品


【見どころ】
観客は蒸せかえる猛暑の中で汗を流しながら捜査する丹波哲郎扮する今西刑事と吉村刑事(森田健作)の二人の刑事と同じ視点に立ってこの事件
と対峙してゆく。この映画はある種のロードムービーとも云える。東北地方、お伊勢まいり、出雲地方など日本の四季を散りばめながら親子の
宿命と戦後の日本そのものを浮かび上がらせてゆく。松本清張原作の方言によるトリックの興味ある謎とき、車窓からのロマンティックな白い
華吹雪、そして親子の旅の背景となる日本の四季。冬の竜飛岬、桃の花の山里など…。原作の持ち味を生かしながらも映画ならでは映像と音楽を
駆使しながらのシナリオ(橋本忍山田洋次の共同執筆)の構成は見事だ。そして常に怒りと憎しみに満ちた眼差しでじっと自分の運命を呪い
ながらも耐える秀夫を見事に表現した少年の演技が凄い!

第一部とも言える事件の発端から迷宮入りまで。そして「カメダ」の謎を解くまでのストーリーと真犯人にたどりつき捜査会議を開くまでの
第二部は推理物の面白さを堪能させ更に第三部では現在進行形で進む捜査会議と和賀英良指揮する交響曲「宿命」のコンサートと親子の巡礼の
旅の過去を対比させながらの三つ巴に構成した映画ならではの見事な映像と編集は日本の古典文楽からのヒントを得たと言う。巡礼親子は人形、
今西刑事の説明は義太夫、そして和賀英良が指揮するオーケストラの音楽は囃子方でその見事な映画的効果はこの作品を単なる刑事モノや
社会派推理モノを超え文芸の域さえ感じる第1級の作品に押し上げた。ラスト近くで千代吉の「おら、こんな人知らねぇー!」の悲痛な叫びで
ほとんどの観客はとどめを刺されるだろう。クライマックスの第三部は和賀が指揮棒を振りおろす瞬間からこの映画の最大のモチーフの親子の
旅がいっさいのセリフなしで始まり音楽が終わった時、映画も終わる。
原作の小説では数行でしかない「乞食の親子の旅」をここまでふくらませた橋本 忍のシナリオは凄い!
原作者松本清張をして「映画が原作を超えた」と言わしめた。そしてこの作品を更に傑作の域まで高めた菅野光亮作曲の交響曲「宿命」と音楽
監督の芥川也寸志の才能に負うところも多いと思う邦画史に残るこの映画音楽も是非お聞き逃しなく。