新平家物語

9月の市民シアターの上映作品をご紹介致します。

国民文学 吉川英治著「新・平家物語」世界の溝口健二が映画化
日時)平成23年9月25日(日)午後1:30〜3:20
場所)見附市立図書館(2F視聴覚室)
作品)大映映画1955年(昭和30年)川口松太郎企画 溝口健二監督108分 原作吉川英治
出演)市川雷蔵久我美子、林 成年、木暮実千代進藤英太郎中村玉緒千田是也柳永二郎
   大矢市次郎河野秋武、十朱久雄 他
【あらすじ】
貴族・藤原一族による政治で世が乱れていた保延三年(1137年)。京都の平忠盛大矢市次郎)は、
西海の海賊征伐を首尾よくおさめ帰朝したが、藤原一族は、武士は生かさず殺さずと褒賞すら与えなかった。
そうした中、忠盛の長男清盛(市川雷蔵)は平家の肩を持って謹慎させられたという公卿の藤原時信(石黒達也)
の館で時信の娘・時子(久我美子)に出会う。その後、清盛は商人朱鼻の伴卜(進藤英太郎)から実の父が忠盛ではなく、
白河上皇柳永二郎)だと吹き込まれる。忠盛の妻の泰子(木暮実千代)が祇園白拍子であった時の上皇落胤だというのだ。
忠盛は真実を問いただそうとする清盛を相手にしない。その忠盛が、延暦寺と朝廷の間に起った争いを収めた功により位が
授けられることになったが、清盛はそこで忠盛の闇討ちが計画されていることを知る・・・。
後期溝口健二の得意な大河的時代劇。大河とはいえ、大味感は全くなく、緊張感を持って最後まで見ることが出来る。
公家政治の行き詰まりと武士の台頭、比叡山武装化と武士、公家との対立が、単に説明的ではなく、庶民や武士の生活者の
日常を描きつつ、巧妙に描かれている。市や廓で、狼藉を働く僧兵、戦の開始間近と見て刃物を売る露天商、将来の権力の
行方を見て青田買いする商人。物語を楽しみつつ時代の臨場感が画面から伝わり、引き込まれる。その背景で清盛の出世物語が、
活き活きと描かれている。時代考証も念入りに行われたであろうことは画面から容易に想像がつく。時代絵巻を見るようだ。
名カメラマン宮川一夫のカメラワークと色彩美、溝口監督のこだわり、役者陣の重厚さ、更にセット、小道具など日本映画の
奇蹟のような名作です。

【見どころ】
当時の映画人の心意気と水準の高さが画面から怒涛のように伝わってきます。溝口映画おなじみの顔が多数出演している。
最後から2作目の作品だが、演出はエネルギッシュそのものだ。特にロングショットは、緊張感が漂う。延暦寺の僧兵決起の場面は、
一人一人の役者のセリフも長く、カメラワークも複雑で、溝口の面目躍如だ。雷蔵=清盛の演技が力強く素晴らしい。眉を太めに
メークした雷蔵はカッコ良くて、平氏といえばどちらかというと源氏に対する悪役というイメージが変わります。公家や僧兵など
他の勢力側のキャラクター付けも実に面白い! 完璧主義者の溝口健二監督の伝説は残っていて、セットの川岸の葦が気に入らない
といって「華道の先生を連れてきて植えさせろ」と言ったり、朝から午後まで市川雷蔵に石ころだらけのセットを走り去るシーンの
テストを繰り返して雷蔵の足を傷めたり、勢い余って川に転んだ雷蔵にすぐさま「平気だろ」とまたテストを求めたために、雷蔵
「新・平家物語」じゃなくて「新・平気物語」だと愚痴ったとか(近代映画臨時増刊「新・平家物語」’55年9月刊より)
時代劇が苦手な人も娯楽大作映画として大いに楽しめます。スペクタクルな群集シーンに豪奢な美術セット、木暮実千代の谷間サービス
といたれりつくせり。2時間という尺では清盛が僧兵に一矢報いたトコロまでだったのが少し尻切れトンボで、さしずめ『平清盛・青春編』といったところか。
ラストシーンで武士を下僕と見做して横暴を極める公家が広大な草原で白拍子を侍らせ酒色に耽る姿に「今に見ておれ!」と
清盛が啖呵を切るところで映画は終わるが、これは父の復讐を誓うことを意味すると思う。いかにも続編がありそうな形で
期待されたが監督・主演も変わってしまい残念でした。