V-storm50の時々日記 永遠の0(ゼロ)


百田尚樹のデビュー作「永遠の0」の映画を観てきました。小説の発売以来300万部を遥かに超える発行部数を
誇る空前のベストセラーとなった物語を読まれた人も多いと思いますし、映画のために原寸大のゼロ戦
もリアルに制作され、更に主題歌「蛍」をサザンオールスターズ桑田佳祐(作詞作曲も)が歌うなど
公開前から話題の作品で上映時間は144分(2時間24分)の佳作でした。

主人公のゼロ戦パイロット宮部久蔵に岡田准一その妻松乃に井上真央大石賢一郎にこれが遺作となった
夏八木勲の他、風吹ジュン三浦春馬吹石一恵染谷将太などをベテランの平幹二朗橋爪功田中泯
、山本覺などが脇を固め、ほぼ原作に沿った展開で映画は作られている。実物大のゼロ戦はコックピット
の計器盤やレバー、操縦桿などの細かいディティールもうまく再現されていて空中戦などはまさに観てい
る自分も飛行士になったようなリアル体験が楽しめた。最近のCGは素晴らしく空母赤城の俯瞰映像なども
乗組員が作業しているさままで細かな映像が丹念に作りこまれていて迫力は満点。

また、米軍のグラマンムスタング、P−38ライトニングなどもはっきりと認識できた。惜しくは日本軍の
97式艦上攻撃機、99式艦上爆撃機、一式陸攻などが画面の脇や遠くに見えるのみであまり知らない人には
ゼロ戦だけで戦っているように見えたのではと思います。ゼロ戦に代表される単座(1人乗り)戦闘機は
攻撃機爆撃機など複座(2人乗り)3座(3人乗り)などの雷撃機(魚雷で空母などを攻撃)爆撃機(爆弾を落とす陸上の爆撃)などを援護して敵の戦闘機を追い払う目的が主な任務となります。映画の中で
「俺が敵の戦闘機から守れなかったので攻撃機が撃たれ一瞬のうちに3名が死んだ」と言うセリフは
まさにこのことです。

原作を読まれた方は生き残ったゼロ戦の搭乗員だった老人たちの証言で海軍一の「臆病者」と呼ばれた
宮部久蔵の本当の姿が徐々に浮かび上がってゆく過程と久蔵の孫にあたる姉の佐伯慶子と弟の健太郎
本当の祖父のことを数々の生き残り証言を聞き取ることにより、人間的に成長してゆく姿を並行して
描いてゆくストーリー展開は頷きながら映画を鑑賞できたのではないかと思います。
私はこの小説を読んだときそのストーリー展開が浅田次郎の「壬生義士伝」にあまりにも似ていてビックリ
しました。新撰組隊士の中でで守銭奴と呼ばれ武士の風上にもおけない金に汚いやつで命を惜しみ、
何かといえば故郷に残してきた妻子のことを思い出しては懐かしむ女々しい男「吉村貫一郎」が最後には
切腹した。切腹に至ったまでの彼の行動を生き残った老人たちが明治の時代になってから訪ねてきた、
作家にそれぞれの視点で想い出を語る。そして浮かび上がってくる本当の吉村貫一郎」の真の姿とは…

どうでしょう?ストーリー展開が似ているとは思いませんか。偶然とは思いますがどちらも大好きな
作品です。映画は原作同様、そのクライマックスで何故、生きて妻子のもとに帰ることを約束してた
久蔵が特攻に志願したのかそして部下の大石に最愛の家族を託した思い。更に戦後の混乱期、困窮の中で
やくざの親分の妾となった「松乃」をその親分を殺し助け、松乃に金を与え「生きろ!」と言った返り血
を浴び血刀をもった若い男とは…。

原作のエピローグは久蔵の乗ったゼロ戦で特攻を受けた米軍空母の乗組員の証言となっている。
レーダーの捕捉されにくく、近接信管付きの砲の弱点を突き、海面すれすれに飛来してきた一機のゼロ戦
空母近くで被弾、それから信じられないように急上昇し、空母の上空に達すると背面のまま、逆落としに
落ちてきて甲板の真ん中に落下した。
その勇敢な操縦士のため米空母の乗組員は遺体を白い布でくるみ海軍式に海に埋葬された。米軍のエース
パイロット レヴィンソン中尉は「日本にサムライがいたとすれば 奴がそうだ」とつぶやいた。 

映画は祖父大石賢一郎から話を聞き終わり帰る道で孫の健太郎が青空の向こうから飛んできて一瞬に過ぎ
去るゼロに乗った久蔵の幻想を見たところで終わる。

原作ではこんな表現となっている。
東京でこんな美しい星をみたのは初めてだった。姉も空を見上げた。
その時、東の空に流れる星が見えた。星は一筋の短い線を引いて消えた。